東北大学理学部「ぶらりがく for you」に参加しました

12月14日、サイエンス・コースでは、第一期生から第三期生を対象に東北大学理学部「ぶらりがく for you」に参加しました。これは「サイエンス・デイ2019」に出展しましたサイエンス・コースの第一期生と第二期生による「サイエンスが面白いってことを君に伝えたいんだ!」が、サイエンスデイAWARD2019で「東北大学理学研究科長賞」を受賞し、その副賞として企画されたものです。
「ぶらりがく for you」では、まず東北大学理学研究科長賞の授賞式が行われ、理学研究科長の寺田眞浩教授よりオリジナルの記念楯が贈呈されました。つづけて、理学部の概要もご説明いただき、光エネルギーを電気エネルギーに変換する太陽電池を例に、既存の技術では成しえない革新技術を生み出す根幹となる普遍的な科学現象を明らかにすることが理学部の役割であることを小・中学生でも理解できるようにお話しされました。
つづいては、教室を変えて今回の「ぶらりがく for you」の1つ目のテーマである、計算分子科学研究室の森田明弘教授によります「原子・分子が動いていく化学」の講義です。ここでは、分子の構造(かたち)を理論的に計算する方法について簡単に解説していただきながら、コンピュータを使って分子のかたちや動きを実際に計算してその様子を見てみました。森田教授の講義では、まず、化学は物質の性質や反応、構造を調べる学問であること、物質は原子や分子からできていて物質ごとに個性があること、化学反応には起こりやすものや起こりにくいものがあって、化学反応はとても速いこと、原子や分子の性質は物理法則(シュレーディンガー方程式)に従っているけれど非常に解くのが難しいこと、今はコンピュータが発達して物理法則が解けるようになって、原子や分子の動きを見ることができるようになったことなどの計算科学の基礎をお話しされてから、コンピュータを使った分子シミュレーションの体験へと進みました。計算するのは、どちらも3つの原子からできた水分子(H2O)と二酸化炭素分子(CO2)です。コンピュータ上でそれぞれの原子を適当な位置においた状態から計算をスタートさせると、みるみる計算が進んで最適な分子のかたちが現れました。おなじ3つの原子からなる分子でも、水分子は折れ線型になり、二酸化炭素分子は直線型です。初めは先生方やサポーターの学生の皆さんに教わりながらコンピュータを操作していた受講生も、みるみる使い方をマスターして一人で分子計算をすることができるようになりました。さらに、分子の中の原子が振動している様子も計算して表すこともできるようになり、二酸化炭素分子の中の原子の振動が温室効果ガスとしての働きに繋がっていることも学ぶことができました。
そして2つ目のテーマは、巨大分子解析研究センター(兼 反応有機化学研究室)の中村達准教授によります研究室見学です。「鏡うつしの分子と最先端化学」と題しまして、研究室で行われている「キラルな有機化合物」の合成に関する内容を紹介していただきました。ここでは、香りと分子のかたちに秘められた謎について、中村先生からの質問に受講生が答えながら探っていきます。まず注目したのは、有機化合物を形作る原子である「炭素」です。分子模型を使って、炭素原子に4種類の原子をつけてみることで、2種類の分子を組み立てることができます。受講生はサポート学生のアドバイスを受けながら2つの分子をくみ上げることができ、これがぴったり重なり合わないけれど鏡うつしになっていることに気がつきました。そして、受講生はこのような性質を「キラル」ということを学びました。キラルな分子を知ったところで先ず挑戦するのは(+)-リモネンと(-)-リモネンの香りの違いの嗅ぎ比べです。この2つの分子は同じリモネンですが、(+)-リモネンはオレンジの香り、(-)-リモネンはレモンの香りというように、違った香りとして感じることができました。人間の体がキラルな化合物の匂いをかぎ分けられることを学んだところで、スペアミントの香りの(-)-カルボンとキャラウェイの香りの(+)-カルボンの匂いの嗅ぎわけにも挑戦しました。このようなキラルな化合物は頭痛薬などの医薬品にも含まれており、分子が鏡うつしになるだけで薬効作用がなくなってしまうなど、キラル化合物の性質についても学ぶことができました。そこで問題となるのが、鏡うつしの分子の片方だけを作り分ける方法です。キラルな分子を作り分けるためには、2つの鏡うつしの分子ができる速さに大きな差をつけるキラル触媒を使うと良いことを説明していただきました。ここでは、中村先生が受講生と協力しながら分子模型を使ってその原理を解説され、実際に研究室で合成した最先端のキラル触媒についてもお話しをしていただきました。
今回の「ぶらりがく for you」では、原子や分子を扱う化学を中心に、コンピュータシミュレーションを使って分子を「見て感じる」とともに、分子の香りを嗅ぎながら「体感する」ことを通して、化学の面白さや奥深さを教えていただきました。受講生にとっては高度な内容で難しいと感じることもあったかと思います。それでも、難しいからこそ知りたい!という気持ちが多くの受講生に芽生えたのではないかと思います。受講生のみなさんには、この貴重な体験を今後のジュニアドクター育成塾の活動にも活かしてくれることを期待します。
最後に、大変お忙しい中、「ぶらりがく for you」をご準備いただきました理学研究科長の寺田眞浩教授、森田明弘教授、中村達准教授、サポート学生の福島和紀さん(生物学科4年)、中島優斗さん(化学科3年)、永塚穂里さん(物理学科3年)、三國和音さん(地球惑星物質科学科3年)、小林優花さん(宇宙地球物理学科3年)、そして理学研究科広報・アウトリーチ支援室のみなさまに心より感謝申し上げます。

東北大学 大学院 理学研究科・理学部 ぶらりがく
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広報・アウトリーチ支援室『Media』
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